…それから。
先に食べていることもできただろうに、彼らはクルサスが落ち着くのを待ってくれていた。
その理由が、彼ら曰く、『みんなで食べたほうが楽しいから』だった。
彼らなりの、クルサスに対する気遣いだった。
「おかわり欲しい人いる?いたら言ってよ?まだたっくさんあるから!」
ほとんどの器がカラになっているのを見て、エメルディが言った。
「マジ!?じゃあオレ大盛り!」
「わたしも!わたしも欲しいな。大盛りじゃなくていいけど。」
「…俺も、少しもらおうか。」
「はいはーい。どんどん食べちゃってねー!」
エメルディは料理をそれぞれの器に盛って手渡す。
「クルサスはどうする?」
「えっ…と、じゃあ、僕ももらおうかな…。」
そう答えて、エメルディに器を渡した。
エメルディはクルサスの器に料理をよそう。
「ね、ねぇ、エメルディ…?」
「ん?」
「私、それはさすがに盛りすぎだと思うわ…。
」
レイナが苦笑気味に言った。
無理もない。ヘタをしたら大盛りのファイエルのものよりも多いかもしれない。
「大丈夫大丈夫!クルサスだったらこれぐらい食べられるって。…はい!」
盛り付けた本人は全く気にしていない様子で、クルサスに器を渡した。
「ええ!?ちょっとこれはさすがに無理…」
「ほらほら、遠慮しないで。」
半ば強引に特盛りの器を渡されたクルサスは、苦笑いをするしかなかった。
「(…食べるしかないな。)」
食事をしながら、彼らとたくさんの話をした。
今まで旅をしたなかで、楽しかったことや辛かったこと。悲しかったこと、嬉しかったこと。
…不思議だ。彼らになら、今まであった事を何でも話せる。
普段なら、自分の事を人に話すなんてことは滅多にしないのに。
…何故だろうか。彼らとは前にも…。
「ねぇ、クルサス。」
「?なんでしょうか。」
レイナが、不意に問い掛けてきた。
「変なこと聞くようで悪いのだけれど…。前にもどこかで会ってるなんてこと…無いわよね…?」
「え…。」
レイナは遠慮がちに言った。
「私、前にもあなたに会っているような…そんな気がするの。」
「…俺もだな。あんたに会ってからずっと考えていたんだが…、
どうしても初対面だとは思えないんだ。…気のせいかも知れんが。」
二人は考え込むように言った。
「どう…なんでしょうね。よく分からないですけど…。僕も、同じ感覚にはなりました。」
前にも、会っている気がする。…単なる、思い過ごしかもしれない。けれど…。
「…そうか。だが、思い当たる節が無いんだ。
単に忘れているだけか…、さもなければ、思い違いをしているか…。」
しばらく、沈黙が流れた。
「…、もう、この話はやめにしましょう。…ごめんなさい。いきなり変なこと言い出したりして。」
「…いえ。」
やっぱり、単なる思い過ごしなのだろうか。
「今の話はひとまず忘れて、別の話をしよう。」
彼らと過ごした時間は、とても楽しかった。
さっきの話も、もう気にならなくなっていた。
大人数で食事を囲んで、笑いながら話をして…。
どれくらいぶりだろうか。食事が、こんなに楽しいと感じられたのは。
今まで一人で旅をしてきて…、食事は単なる生活の一部でしかなかった。
過去のことは分からないが、少なくとも旅をしている間は、
自分にとって食事は『生きるためにすること』だった。
一人で食事をしたって、話し相手がいるわけでもないし、楽しくも無い。
ただ、黙々と食べるだけ。
……彼らは、いつもこうなのだろうか。
いつも、笑いながらその日にあった事を話して、食事をしているのだろうか。
そう思うと、彼らがとても羨ましく思えた。
食事が終わり、それぞれが片付けをはじめた。
太陽はもうほとんど沈み、うっすらと空に星が見えはじめている。
片付けと、荷物の整理を終わらせたクルサスは、木の下で座って休んでいた。
時折吹く心地よい風が、木々の葉をさわさわと鳴らしている。
「クルサス。」
「あ、ルーディオさん。」
歩み寄ってきたルーディオに声を掛けられ、クルサスは顔を上げた。
「もう、終わったのか?」
「はい。もともと、荷物はそんなに多く無かったですし。」
「そうか。」
ルーディオはクルサスの隣に座った。
「ルーディオさんは、もう終わったんですか?」
「ああ。とりあえずな。ほかの奴らはまだかかりそうだ。」
空はもうほとんど暗くなり、月が昇りはじめた。
「…クルサス、俺達と一緒に、旅をしないか?」
「えっ…。」
クルサスは思わずルーディオの顔を見た。
あまりにも唐突だったため、正直戸惑った。
「…でも、皆さんは皆さんの旅の目的があるわけですし…。」
「俺は、あんたの記憶を取り戻す手伝いをしたいんだ。
…まぁ、これは俺のわがままだから、無理強いはできないが…。」
「気持ちはありがたいですけど…、ほかの皆さんは…?」
「運の悪いことに、俺達は揃いも揃ってお節介な性格でな。
一度気になったことは解決しないと気が済まないタチなんだ。
おそらく、あいつらも同じ事を言うだろう。」
ルーディオは冗談を言うように笑いながら、そう言った。
クルサスが返答に悩んでいた時だった。
「お~い!クルサス~!」
そう叫びながら走ってきたのは、ファイエルとエメルディ。
「…一足遅かったな。たった今、俺が話をしたところだ。」
ルーディオはそう言うと立ち上がった。
「え~、マジかよ~!」
「せっかくアタシたちが誘おうと思ってたのに~…。」
二人は、やられた、というふうに落胆した。
「…な?」
ルーディオは首だけクルサスに向けて言った。
「……。」
クルサスは目を丸くした。
何故、全くの他人である僕に、ここまでできるのだろう。
そう思いながらも、彼らが自分を旅に誘ってくれたことが、涙が出るほど嬉しかった。
自然と、笑みがこぼれる。
クルサスの答えは固まった。
「ぜひ、ご一緒させてください。」
立ち上がって、三人に言った。
「よっしゃあ!」「やったあ!」
ファイエルとエメルディが、跳び上がって喜ぶ。
「よし、決まりだな。」